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2-2. 魚竜類の眼

2-2-1. 眼の骨

魚竜の眼といっても、いったいどうやれば絶滅動物の眼について研究できるというのでしょうか。答えはきょう膜輪と呼ばれるものにあります。これは眼の中にあるドーナツ型の骨で、哺乳類やワニ類など一部の例外を除き、多くの脊椎動物に知られています。下の写真から分かるように、魚竜類のきょう膜輪は大変よく発達していました。そのおかげで、われわれは眼についてごく基本的な計測をすることが出来るのです。

きょう膜輪の機能は何であったのかという質問をよく受けます。1950年代に、どうやらきょう膜輪がよく発達している眼球は、球形ではないものが多いようだ、ということが言われ始めました。球形は安定な形ですから、きょう膜輪は球形でない眼球が球形にならないように形を保っているのだという解釈がなされました。いわれてみれば、魚竜類の眼球はかなり平たいので、確かにきょう膜輪にはそのような機能が有ったのかもしれません。

眼球が球形ではないという以外にも、魚竜類が眼の形を保つ必要があったのではないかという理由が有ります。サカナのように流線形の物体が水中を進むと、水流のお陰で体の一部は押され、別の部分は引っ張られます。最も強く押されるのは体の前端部で、そこから後ろへ行くに連れ押しは弱くなり、ちょうど眼があるあたりで押しも引きもなくなります(下図)。そこから更に後ろに行くと引きが強くなります。ですから、サカナにしてみれば、眼という柔らかい部分は大変うまい位置におかれているのです。ところが後述するように、魚竜類の眼は体に不釣り合いに大きいので、押しも引きも無い部分にうまく収まりきらないと思われます。だとすれば、単に水中を前進するだけで眼の前の方は押され、後ろの方は引っ張られることになります。その場合、硬い骨が眼の形を保っていればより安心といえるでしょう。これは水深には関係ない話です。


2-2-2. 眼の大きさ

魚竜類が巨大な目を持っていたという話をご存知でしょうか。私が今日まで測った中で最大の眼はテムノドントサウルス・プラティオドンのもので、最大径が264ミリメートルでした(ネイチャーに投稿した当時は253ミリメートルの眼が最大でしたが、今年になって更に大きいものを見つけました)。これは動物の眼の大きさとしては最大です。

体の大きさと眼の大きさを他の動物と比べると、魚竜類の目が如何に大きかったかという実感が湧きます(下図)。

上としたの図から分かるように、眼が最大の魚竜というのは実はもう一ついます。それはオフタルモサウルスです。絶対的な大きさだけから行けばテムノドントサウルスの目の方が大きいのですが、体の大きさとの相対成長を考慮すると、オフタルモサウルスの眼は他のどの動物よりも大きいのです。下の図では青い魚竜がオフタルモサウルスを示しますが、恐竜類やその他の魚竜類と比べても、断然大きい目を持っていたことが分かります。


2-2-3. 眼のF値

魚竜類の眼についてもう一つ興味深い事実が有ります。それは眼のF値です。

カメラファンの人はご存知でしょうが、F値は光学系の相対的な明るさを示す指標です。F値が小さければ小さいほど光学系はより多くの光を取り入れることができます。ですから写真を撮る場合には、よりF値の小さいレンズを使うことでシャッタースピードを速くすることが出来ます。

標準カメラレンズ (約50 mm)
種類 開放F値
普及型 3.5以上
中級 1.4 から 2.8
高級 1.0 から 1.2

動物の眼にもF値があります。夜行性の動物では開放F値が小さく約1.0ほどですが、昼行性の種では割と大きく2.0以上です。より光が少ない環境で生きているものほど開放F値が小さいのは当たり前といえば当たり前かも知れません

動物の眼
種類 開放F値
ヒト 約 2.1
フクロウ 約 1.1
ネコ 約 0.9
オフタルモサウルス 0.8 から 1.1
イクチオサウルス 1.1 から 1.3

比較眼科学の等式を使うと、魚竜類の眼の開放F値がどのような範囲であったのかを推定することが出来ます。それによると、オフタルモサウルスやイクチオサウルスといったサカナ型魚竜の眼は、夜行性動物のように低い開放F値を持っていたことが分かります。サカナ型魚竜類でもステノプテリギウスなどは少し大き目の値を、トカゲ型魚竜類はかなり大きい昼行性動物のような値を持っていました。

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Last updated on November 15, 2000